(その135) 仲の良かった兄弟が遺言書と任意後見契約を作っておけば・・・(2016.12発行)
10月下旬高津区に住むUさんが相談にみえました。所長がお話を伺いますと、89歳の母と88歳の父が住んでいる、50坪の家と地続きの60坪の駐車場を、両親の家の近くに住む61歳の姉が、Uさんに何の相談もなく1億1千万円で売却し4千万円のマンションを購入して両親を住まわせている事を、最近知った。
訳を聞きに両親のマンションに行きますと姉がいて「両親に頼まれてやったことであなたに関係ない」と言われました。
警察官を呼ぶ事態に
「とんでもない」と語気強く言っただけなのに警察を呼んで「暴力をふるう恐れがあり何とかして下さい」と姉が警察官に訴えましたのでその日は引き上げました。後日姉の弁護士という人から「売却した家にUさんの持ち物があるので処分してください。何か言いたいことがあったら弁護士を通じてください」との文書が送られてきた。という内容でした。
合同法律事務所の弁護士に相談すると「親子であっても父母の名義であればUさんに何の権利もない、姉は親に頼まれてお金を管理しているだけで姉にも権利はありません。両親が亡くなられたときにはじめて相続権が発生する。」との説明にUさんは「姉がお金を全部使ってしまう心配があるのでどうしたら防げるでしょうか」と聞きますと「成年後見契約を結ぶしかありません。そのためには両親の診断書が必要になります」と説明されてもUさんが両親に接するには弁護士を通じなければならず途方に暮れ解決の出口が見えない状況です。
今回の教訓は、両親の判断力があり元気なうちに公証役場で遺言書と任意後見契約を結んでおけばこのような面倒は起きなかったのです。
親子だからと安心していないで早めに任意後見契約をすることをお勧めします。
(その134) ダメだ、とあきらめずに相続放棄ができました(2016.11発行)
簡易宿泊施設に住むXさんから「疎遠だったアニキが隣県の病院に入院していて、そろそろダメらしい。もしアニキが借金抱えて死んだら、その借金はどうなる?」という相談を受けたのは去年の6月。お兄さんは独身で、相続人はTさんを含む兄弟のみ。相続財産には不動産や貯金などプラスのものと、借金などマイナスのものがあることを説明し、「お兄さんが借財を残して亡くなった場合は3か月以内に相続放棄の手続きをしないと厄介なことになります。お葬儀が終わったらすぐに知らせてください」と念を押し、ひとまずお帰り頂きました。
督促状にびっくり
それから1年以上経って再会したXさんは、お兄さんの債権者からの督促状を手に憔悴した表情でした。
お兄さんの死後3か月はとうに過ぎ、他の兄弟は相続放棄済み。 つまりXさんだけが借金返済を背負わされる立場ですが、Xさんご自身も生活保護を受けていて人の借財を返済できるほどの経済的余裕はありません。
お兄さんとは疎遠で葬儀の連絡もなく、債権者からの督促通知で初めてその死を知ったことなどを理由に家庭裁判所に相続放棄の申請をしました。
3か月を過ぎていましたが、それらの理由が正当であると認められ、申請が受理されたことを知らせると、「アニキの借金払うか、それが無理なら死のうかと思ったけど、おかげで助かりました」と心底嬉しそうでした。
八方ふさがりに見えるような状況であっても諦めずにご相談ください。最善策を私たちと一緒に考えましょう。
(その133) ネットワークでつながり暮らしが見えてきました(2016.10)
2月17日「かながわ生活相談ネットワーク」が結成され、岡本一さんが代表世話人に、宮原所長が世話人に選出され、全県の相談活動が活発に交流されるようになりました。
3月初旬、鶴見の相談所からの紹介で渡田向町に住むFさん(38歳)が相談センターに見えました。
所長がお話を伺いますと、賃貸マンションに祖母と一緒に住み、介護しながらアルバイトをしていて「生活が苦しいので相談に来た」とのことでした。「生活保護の申請をしたらいかがですか」と勧めましたが「まだ若いし生活保護には抵抗があるので少し考えさせてほしい」と帰られました。
生活保護、悩んだ末に
8月22日に「頑張ってみましたが蓄えもなくなり、叔母からの支援も止まって生活ができなくなり生活保護の申請をしたいので」と再びセンターに見えました。
所長が福祉事務所に同行。相談担当者からは根掘り葉掘り聞かれ、Fさんが涙を流しながら生活の苦しい実情を訴える場面もありましたが、何とか受理されました。
担当のケースワーカーさんが自宅を見にきて「家賃が高いので転居が必要ですが、認知症のおばあちゃんと犬がいる条件ではすぐには無理ですね。大家さんに家賃の値下げを交渉してみてください」という条件が付きましたが、8月29日「お陰さまで生活保護の受給が決定しました。本当にありがとうございました」とお礼に見えました。
生活保護法は憲法25条で「国民は健康で文化的な生活を送る権利がある」に基づいてつくられた法律であり、「若い」とか「怠けているのではないか」とか言って申請を受理しないことは不当です。
国民の権利ですから生活が苦しかったら最後のセーフテ―ネットである生活保護の受給をお勧めします。